概要
- 5月の米雇用統計は非農業部門雇用者数が市場予想を大きく上回ったものの、失業率と平均時給は弱い結果に
- FRBが6月に利上げを休止するとの観測が強まった
- 米債務上限法案が上下院で可決し、デフォルトが回避された
- 2025年1月1日まで債務上限の適用が停止、同時に今後2年間の連邦歳出に上限が設けられる
- ユーロ圏のCPIは総合とコアが共に市場予想以上に鈍化
- ECBのラガルド総裁は「コアインフレがピークに達したことを示す明白な証拠はない」として、追加利上げをする意向を示した
米雇用統計は強弱入り交じる結果に、利上げ休止観測強まる
5月の米雇用統計は、非農業部門雇用者数が市場予想前月比19万5000人増、結果が33万9000人増となり、結果が市場予想を大きく上回りました。一方、失業率は市場予想が3.5%、結果は3.7%上昇と弱い結果になっています。
また、平均時給は市場予想が0.3%増、結果も0.3%増となり、市場予想と結果が一致しました。ただし、前月の0.4%増からは伸びが鈍化しています。雇用統計が強弱入り交じる内容となったことで、米連邦準備制度理事会(FRB)が利上げを休止するとの観測が強まりました。
特に失業率が前月の3.4%から3.7%まで大きく上がり、前月からの上昇幅が2020年4月以来の大きさとなっており、これはFRBの利上げの判断に大きな影響を与えそうです。市場関係者は「我々の見解では、労働市場はヘッドラインの数字が示唆するより弱い。家計調査で示された就業者数は5月に実際のところ減少した」と説明しました。
サマーズ元米財務長官は、「今月の利上げの是非は判断が難しい」とした上で、「相対的にリスクが低い戦略は利上げ実施だ」としています。「もし6月に利上げをおこなわず、経済が好調を維持してインフレ率も高水準だった場合、7月会合で50ポイントの利上げが必要になる可能性にオープンでなくてはならないだろう」と語りました。
現在、市場では6月の利上げは据え置き、7月に0.25ポイントの利上げ、11月に0.25ポイントの利下げが予想されています。利上げ休止観測が強まったことでドルが売られやすくなり、ドル円の上値を抑えるような展開が続くかもしれません。
米債務上限法案が上下院で可決、デフォルト回避
米上院がバイデン政権と共和党の連邦債務上限合意を盛り込んだ「財政責任法案」を賛成多数で可決し、デフォルトが回避されました。2025年1月1日まで債務上限の適用が停止されますが、同時に今後2年間の連邦歳出に上限が設けられることになります。
下院でもすでに可決されていることから、その後にバイデン大統領が署名したことで法案が成立しました。世界を騒がせた米債務上限問題ですが、今回もデフォルトと世界経済への壊滅的な打撃はギリギリで回避された形です。
バイデン大統領は「リスクはかつてないほど高かった」とし、「合意に至らなければ米国の247年の歴史で初めてデフォルトにおちいる恐れもあった」、「これほど無責任なことはなかっただろう」と述べました。同時に、極めて分断化した時代にあっても、米国最大の問題について党派を超えて解決できるという「ワシントンのディールメーカー」としての自身の評価をアピールしています。
サマーズ元米財務長官は、今回の債務上限問題の解決策を「合理的な結果」と評しました。投資家は既に米国のデフォルトのリスクは解決されたとおおむね判断し、FRBの金融政策など他の不確定要素に関心を移しています。
ユーロ圏のCPIが予想以上の鈍化、利上げは継続の意向
5月のユーロ圏消費者物価指数(CPI)は市場予想が6.3%、結果が6.1%となり、結果が予想を下回りました。また、燃料や食料品など変動の激しい項目を除くコアインフレ率は市場予想が5.5%、結果が5.3%とこちらも結果が予想を下回っています。
どちらも4月から数値が鈍化しており、特にコアインフレ率の伸びが予想以上に鈍化したことから、欧州中央銀行(ECB)の引き締め余地はあまり残されていないと見る市場関係者も出てきました。ただし、ECBのラガルド総裁は「コアインフレがピークに達したことを示す明白な証拠はない」として、追加利上げの意向を示しています。
ユーロ圏の経済大国4カ国はいずれもインフレが鈍化しており、ドイツでは5月のCPIが前月の7.6%上昇から6.3%上昇へ大きく鈍化しました。しかし、ユーロ圏のコアインフレ率は高い水準が続いているため、ECBは6月も利上げを継続する可能性が高いです。
市場関係者は、「最近の賃金妥結とサービス価格の圧力継続で、コアインフレ率は高止まりする可能性が高い」との見解を示しました。現在、市場ではECBが6月と7月または9月に2回の追加利上げを実施すると予想されています。