概要
- 8月の米非農業部門雇用者数は堅調だったものの、平均時給と失業率は弱い結果に
- 市場関係者「9月の利上げはここまで基本シナリオではなかった。この統計でその可能性はさらに低くなった」
- 8月のユーロ圏CPIは総合で伸びの鈍化が止まったが、コア指数は前月から鈍化
- 市場関係者「9月の利上げ休止には十分な統計内容」
- 中国の不動産開発大手碧桂園が、社債の償還期限延長について承認を得ることに成功
- 今月5日か6日にデフォルトの可能性も
8月の米雇用統計は強弱入り混じる結果に
8月の米非農業部門雇用者数は市場予想が前月比15万7000人増、結果は18万7000人増となり、結果が市場予想を上回りました。エンターテインメント業界でのストライキと大手陸運会社の事業閉鎖があったものの、雇用者数は堅調なペースで増加しています。
一方、平均時給は市場予想が前年同月比4.4%増、結果は4.3%増となり、結果が市場予想を下回りました。また、失業率は市場予想が3.5%、結果は3.8%となり、結果が市場予想を上回りました。
失業率が3.8%と2022年2月以来の高水準に上昇し、平均時給も前月比では0.2%上昇と昨年初め以来の低い伸びになったことで、利上げ停止の主要な妨げとなってきた労働市場の堅調さに陰りが見えてきています。加えて、6月と7月の雇用者数も11万人下方修正されています。
市場関係者は「雇用者数の上振れとは裏腹に、利上げサイクルの一時停止を示唆する弱さがある。時間当たり賃金の伸びは著しく鈍化し、労働参加率は上昇した。特に高齢労働者と働き盛りの年齢層の女性で顕著だ。さらに、過去の数字は再び下方修正された」と指摘しました。全体の労働参加率は今年3月以来初めて上昇し、62.8%と2020年2月以来の高水準です。
サマーズ元米財務長官は今回の雇用統計について、「非常に楽観的なシナリオに一致している」と語り、「統計内容には警鐘となり得たあらゆる要素が含まれているが、警鐘は鳴らなかった」との見方を示しました。また、別の市場関係者は「労働市場は徐々に熱が下がり続けている。まさに米連邦準備制度理事会(FRB)が望むような形だ」とし、「9月の利上げはここまで基本シナリオではなかった。この統計でその可能性はさらに低くなった」と語っています。
米連邦公開市場委員会(FOMC)は7月の会合で、政策金利の誘導目標を22年ぶりの高水準となる5.25〜5.5%に引き上げており、雇用統計の発表前は年内にもう1回利上げがあることが市場で予想されていました。しかし、雇用統計の発表後には予想が変更され、金利は据え置き、来年の5月には0.25ポイントの利下げとなっています。
なお、ドル円は雇用統計発表前には145円台前半で推移していましたが、雇用統計発表後に一時144円半ばまで下落しました。
ユーロ圏CPIの伸びの鈍化止まる
8月のユーロ圏CPIは総合が市場予想前年同月比5.1%上昇、結果が5.3%上昇となり、結果が市場予想を上回りました。変動の激しいエネルギーや食料を除くコアCPIは市場予想が前年同月比5.3%上昇、結果も5.3%上昇となり、結果と市場予想が一致しています。
総合CPIは5月以降鈍化が続いていましたが、8月は7月と同じ数値となりました。一方、コアCPIは7月の5.5%上昇から伸びが鈍化しています。
総合CPIの伸びの鈍化が止まったことで利上げがあるかどうかの予想が難しくなりましたが、インフレの基調を示唆するコアCPIの伸びが鈍化したことは、利上げ観測の後退につながっています。市場関係者はCPIの結果について、「市場にとっては9月の利上げ休止には十分な統計内容だ」との見方を示しました。
また、欧州中央銀行(ECB)政策委員会メンバーのビルロワドガロー・フランス銀行(中銀)総裁は、「以後の会合でもそうであるように、この会合でもわれわれの選択肢はオープンだ」としています。加えて、政策金利のピークの水準について「水準よりも期間が重要だ」との認識を示しました。
中国不動産開発大手碧桂園が社債の償還期限延長へ
中国の不動産開発大手であり、恒大集団と同じくその動向に注目が集まっている碧桂園が人民元建て社債の償還期限延長について債券保有者から承認を得ることに成功しました。懸念されているデフォルトの回避につながることから、市場にはいくらかの安堵感がもたらされました。
碧桂園は投票において、39億元(約785億円)の元本支払いの期限を2026年まで延長することに十分な支持を得ています。ただし、碧桂園は他にも期限が迫っている債券があり、負債総額は約1870億ドル(約27兆円)に上ると見られています。
ドル建て債2本の利払いを今月5日か6日の猶予期限内に実施しなければ、デフォルトに陥るリスクがあることから、人民元は神経質な値動きになる可能性がありそうです。