概要
- 日銀は金融政策決定会合で金融政策の現状維持を決めた
- 日銀の植田総裁は出口までの距離について明言せず
- 11月の米PCEは総合とコア共に予想を下回る伸びに
- 市場関係者「FRBは今後、いくつかのデータから利下げ時期や利下げ幅を見極めるだろう」
- 11月の全国消費者物価指数は、日銀が重視するコア指数の伸びが前月から鈍化
- 賃金と物価の好循環が続くかが今後の焦点に
日銀は金融政策を現状維持、出口までの距離も明言せず
日銀は金融政策決定会合で金融政策の現状維持を決め、イールドカーブコントロール(YCC)を軸とした大規模な金融緩和策が維持されました。また、日銀の植田総裁は会合後の記者会見で「2%物価目標が実現する見通しの確度は徐々に高まっている」としつつ、出口までの距離については明言しませんでした。
市場では、早ければ来年1月にマイナス金利の解除などを実行して正常化に踏み切るとの観測が広がっています。来年の賃上げを巡る動向などを踏まえ、賃金上昇を伴う2%物価目標の達成を見通せるかどうかがキーになりそうです。
また、氷見野副総裁が大規模緩和からの出口が家計や企業などに与えるメリットに言及し、植田総裁が「年末から来年にかけて一段とチャレンジングな状況になる」と述べたことから、市場では日銀のスタンスに変更があるのではないかとの期待が高まっていましたが、これは肩透かしに終わってしまいました。植田総裁は「チャレンジング」発言について、「国会で仕事への取り組み姿勢を問われ、一段と気を引き締めてというつもりだった」と説明しています。
ある市場関係者は「1月も全否定はせず、1月から4月いずれも選択肢を残した」とし、「最終的なタイミングについてはフリーハンドを維持した」との見解を示しました。
米PCEが予想を下回る伸びに、利下げ観測に追い風
11月の米個人消費支出(PCE)は総合が市場予想前年同月比2.8%上昇、結果が2.6%上昇となり結果が市場予想を下回りました。また、食品とエネルギーを除くコア価格指数は市場予想前年同月比3.3%上昇、結果が3.2%上昇となり、こちらも結果が市場予想を下回っています。
総合とコア価格指数が共に市場予想を下回ったことで、来年の米利下げ観測には追い風になりました。ある市場関係者は「インフレ率を目標の2%に下げるのに十分なことをしたと、FRBは確信しているに違いない」とし、「利上げサイクルは終わり、利下げ開始は時間の問題だとパウエル議長が示唆したのも驚きではない。FRBは今後、いくつかのデータから利下げ時期や利下げ幅を見極めるだろう」と語っています。
別の市場関係者は「総合価格指数の低下、緩やかかつ下方修正されたコア価格指数の伸び、支出を上回る所得の増加は、FRBにとって年末の贈り物となった」としつつ、「企業が在庫削減に成功し(それによって後々の値下げを回避できる)、労働市場が予想通りに冷え込めば、2024年の利下げは一部で見込まれているような完璧なディスインフレが要因ではなく、活動の鈍化が理由となるかもしれない」との見方を示しました。今のところ米国経済はリセッション(景気後退)や雇用情勢の深刻な悪化が見られず、インフレ率も低下傾向にあります。
現在、市場は来年3月に0.25ポイントの利上げが実施され、年間では計6回1.5ポイントの利下げがあると予想しています。
全国消費者物価指数コア指数の伸びが2カ月ぶりに鈍化
11月の全国消費者物価指数は、総合が市場予想前年同月比2.8%上昇、結果が2.7%上昇となり結果が市場予想を下回りました。また、生鮮食品を除くコア指数は市場予想前年同月比2.5%上昇、結果も2.5%上昇となり、結果が市場予想と一致しています。
日銀が重視するコア指数は前月の2.9%上昇から伸びが鈍化しており、食料品やエネルギーが押し下げ要因となりました。輸入物価上昇を起因とした価格転嫁が落ち着くのに伴い、消費者物価のプラス幅が縮小していくのは日銀の予想通りだといえます。
日銀の植田総裁は「物価目標実現に不可欠な賃金と物価の好循環の強まりを確認する上で、賃金から物価への波及の面で特にサービス価格の動向などに注目している」としており、賃金と物価の好循環が続くかが今後の焦点になりそうです。11月のサービス価格は2.3%上昇と、前月の2.1%上昇から伸びが拡大し、消費税率引き上げの影響を除いて1993年10月以来となる約30年ぶりの高水準になっています。
ある市場関係者は「日銀にとっても明るい動きを確認するような統計になった」と指摘し、日銀が1月にマイナス金利を解除して、4月にはYCCを撤廃すると予想しました。