概要
- 10月の米CPIは総合とコア共に市場予想を下回り、伸びも9月から鈍化
- 12月のFOMCでの利上げ幅について、0.5ポイントの織り込み度合いが強まった
- ドル円は一時138円台半ばまで下落し、一週間で5%余りドル安・円高が進行
- 米中間選挙は共和党が大勝するとの見方が強まっていたが、民主党が善戦
- 政治的な「ねじれ」が発生すれば、リスクオンでドルが売られる可能性
- EUの欧州委員会が最新の経済予測で、ユーロ圏の来年の成長見通しを下方修正
- 英国経済も第3四半期は、2021年第1四半期以降で初めて縮小
米CPIが市場予想を下回る、ドル円は大幅な下落
10月の米総合消費者物価指数(CPI)は、市場予想が前年同月比7.9%上昇、結果は7.7%上昇と市場予想を下回りました。変動の大きい食品とエネルギーを除くコアCPIは、市場予想が前年同月比6.5%上昇、結果は6.3%上昇とこちらも市場予想を下回っています。
加えて、総合とコア共に9月から伸びが鈍化しており、数十年ぶりという物価上昇が勢いを弱めつつあるとの期待を持たせる内容となりました。FRBにとって急激な利上げを減速させる余地が生まれたと言えるかもしれません。市場関係者は「今回の統計の基調的な要素は良好で明るい内容だ。インフレがピークから下がりつつある兆候がやや見られる」と説明しました。確かに総合とコア共にCPIの伸びが鈍化したことは良いニュースと捉えられるでしょう。
しかしながら、現在のCPIの数値はFRBを満足させるには依然として高過ぎるのも事実です。FRBのパウエル議長は今月、「前月比でのインフレ指標が着実に鈍化するパターンを目にする必要がある」と語っています。さらに、「政策金利のピーク水準は当初の想定よりも高くなる可能性が高い」との認識を示しました。
また、総合CPIでは住居費の上昇が指数全体の伸びの半分余りを占めました。住居費はすぐに変動するようなものではないため、総合CPIの伸びが今後鈍化しづらくなる可能性も考えられます。
今回のCPIの結果を受け、短期金融市場では12月の米連邦公開市場委員会(FOMC)での利上げ幅について、0.75ポイントと比べて0.5ポイントの織り込み度合いが一気に強まりました。加えて、来年の政策金利のピーク水準の予想は5.0%を下回っています。
12月にFRBが利上げ幅を縮小するとの思惑が強まったことから、ドルは主要通貨に対して大幅安となりました。ドル円は一時138円台半ばまで下落し、一週間で5%余りドル安・円高が進行しています。ドル円は週間で2008年以来の大幅な下落を記録することになりました。
米中間選挙は予想に反して民主党が善戦
米中間選挙は支持率の落ちたバイデン政権に対して、野党である共和党が「レッドウェーブ(赤い波)」に乗って大勝するとの見方が強まっていました。しかしながら、今回の選挙ではレッドウェーブは民主党の善戦により起きていません。
世論調査では米経済の現状に対する有権者の強い不満が示されており、それによって共和党指導部は自信を深め、トランプ前大統領は勢いに乗ろうと2024年におこなわれる大統領選への出馬をあらためてほのめかしていました。とはいえ、共和党は下院の過半数の議席を奪還する可能性は高いものの、民主党の善戦で予想されていたほど差は開かない見通しです。さらに、まだ当選確実が決まらない選挙区も多くあり、民主党勝利の可能性も残されています。
もし民主党のバイデン大統領と共和党の議会との政治的な「ねじれ」が発生すれば、財政政策に歯止めがかかり、インフレ圧力やFRBによる金融引き締めへの警戒感が後退することが考えられるでしょう。この場合は米株などのリスク資産が反発し、リスクオフで買われやすいドルは売られることになりそうです。
欧州委員会がユーロ圏の来年の成長見通しを下方修正
欧州連合(EU)の欧州委員会は最新の経済予測で、ユーロ圏の来年の成長見通しを下方修正し、「ほぼ停滞する」と予想しました。今年と来年のインフレ率の予想は大幅に引き上げられています。経済は現在縮小しているとの認識を示し、来年1〜3月(第1四半期)も縮小が続くとしました。
10月のユーロ圏のインフレ率は10.7%と過去最高を記録しましたが、欧州委員会は今年のインフレ率が平均8.5%、2023年が6.1%との見通しを示しています。加えて、23年の成長率予想はわずか0.3%に下方修正されることになりました。
英国経済も7〜9月(第3四半期)に、2021年1〜3月(第1四半期)以降で初めて縮小しています。ユーロやポンドに大きな影響を与えることが考えられるため、今後の値動きには注意した方がよいでしょう。