概要
- ジャクソンホール会合でパウエル議長が「インフレを根絶するために利上げを継続し、金利を高い水準でしばらく維持する可能性が高い」ことを示唆
- 「9月のFOMC会合で、異例に大幅な利上げをもう一度実施することが適切となる可能性もある」と発言
- パウエル議長は「金利上昇と成長減速、労働市場環境の軟化はインフレを鈍化させるが、家計と企業に痛みをもたらすことにもなる」と説明
- パウエル議長の講演でドル円は137円台半ばまで上昇し、ダウ平均は1,000ドルを超える大幅な下落を見せた
- 欧州の電力取引価格が記録的な急騰、EUは緊急会合開催へ
ジャクソンホール会合、市場の楽観的なムードをけん制
カンザスシティー連銀が主催するワイオミング州ジャクソンホールでの年次シンポジウム(ジャクソンホール会合)にて、米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長が講演をおこないました。講演でパウエル議長は「インフレを根絶するために利上げを継続し、金利を高い水準でしばらく維持する可能性が高い」ことを示唆し、市場にあった楽観的なムードをけん制しました。
事前に配布された原稿によれば、「物価の安定を回復するには、景気抑制的な政策スタンスを一定期間維持することが必要となる可能性が高い」とし、「過去の記録は早急過ぎる金融緩和を強く戒めている」と付け加えていることから、過去のインフレ抑制に失敗した事例を強く意識していることが分かります。
また、パウエル議長は「インフレ率を目標の2%に下げる取り組みは消費者と企業に経済的な痛みをもたらすものの、当局にとって現時点で最も重要な焦点だ」との認識を示しました。さらに、「9月の連邦公開市場委員会(FOMC)会合で、異例に大幅な利上げをもう一度実施することが適切となる可能性もある」とも述べています。
ただし、「確実に」異例に大幅な利上げを実施すると明言したわけではないことに注意すべきでしょう。「9月会合での決定は、入手するデータと変化する見通しの全体像に左右される」としています。
市場関係者は「講演のトーンからはパウエル議長の強い決意が感じられる」とし、「9月にもう一度大幅利上げが実施されることが示唆される」と語りました。また、パウエル議長がアラン・グリーンスパン氏やポール・ボルカー氏、ベン・バーナンキ氏といった歴代のFRB議長をあえて例に挙げて説明したことについて触れ、「75ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)の追加利上げで講演内容の裏付けをおこなわなければ、パウエル氏は自身の言葉の価値をおとしめることになる」と指摘しました。
パウエル議長は「金利上昇と成長減速、労働市場環境の軟化はインフレを鈍化させるが、家計と企業に痛みをもたらすことにもなる」と説明しており、多少の痛みをともなう形になってもインフレ退治を優先させることになりそうです。
FRB議長発言でドル円は急騰、株は急落に
ジャクソンホール会合でのFRBのパウエル議長の講演で、ドル円は上下に振れた後に急騰、米株は大幅に下落しました。パウエル議長が「金利を高い水準でしばらく維持する可能性が高い」ことを示唆し、FRBが市場の楽観的なムードをけん制したことが背景にあります。
ドルが買われた影響でドル円は137円台半ばまで上昇し、ダウ平均は1,000ドルを超える大幅な下落となる32283.40ドルで引けました。主要株価指数は100日単純移動平均線を割り込んでおり、テクニカル的には節目となる32,000ドルと、その付近にある50日単純移動平均線を下抜けることができるかに注目です。
また、市場関係者は「FRBは成長を犠牲にして積極姿勢を続ける」との認識を示し、「株式市場に対しては、さらなるボラティリティと厳しい状況を見込むべきだ」としました。加えて、「これは市場にとって、ソフトランディングの可能性および年内に高値を更新するという強気シナリオが大幅に低下することを意味する」と説明しました。
欧州の電力価格が記録的な急騰、緊急会合開催へ
欧州の電力取引価格が記録的な急騰を見せており、26日の取引ではドイツで33%、フランスで25%の値上がりとなりました。これに対し、欧州連合(EU)はエネルギー担当相による緊急会合を開いて対応策を協議します。ロシアによる天然ガス供給縮小に加え、フランスでは2005年をピークに原子力発電所の廃止や安全面の懸念から原子力発電所での発電が低迷していることが大きく影響しています。
電力価格の高騰はインフレを加速させ、EU域内の家計や企業の財政にダメージを与えています。チェコのフィアラ首相は、「電力価格が誰の手も届かない水準になったのは市場の機能不全が原因だ」と語りました。
インフレがこのまま加速すれば、9月のECB理事会でも7月と同じく0.5%の大幅な利上げをおこなう確率が高まりそうです。