概要
- 11月の非農業部門雇用者数は市場予想を大きく上回る結果となった
- 平均時給は市場予想の2倍の伸び
- FRBが政策金利を一段と引き上げる可能性が高まった
- 10月のPCEコア価格指数は今年に入って2番目に低い伸びにとどまった
- 実質個人消費支出は前月比0.5%増
- ウィリアムズ総裁「インフレ率は来年大幅に鈍化する見込み」
- 11月のユーロ圏CPIは市場予想を下回った
- 1年半ぶりの減速で低下幅は2020年以来の大きさ
- ECBのラガルド総裁「インフレがピークを付けたのだとしたら驚きだ」
米雇用者数が予想を大きく上回る伸び、平均時給も加速
11月の非農業部門雇用者数は市場予想が20万人増、結果は26万3,000人増となり、市場予想を大きく上回りました。平均時給は前月比0.6%増となり、今年1月以来の大幅増加です。失業率は市場予想が3.7%、結果が3.7%と予想通りの結果になりました。
今回の雇用統計の結果はインフレ圧力のしつこさが示されており、FRBが政策金利を一段と引き上げる可能性が高まったと言えるでしょう。特に、平均時給は市場予想が前月比0.3%増、結果が0.6%増となり、市場予想の2倍の伸びとなっています。10月分も速報値の0.4%増から0.5%増に上方修正されており、賃金の伸びの加速が目立ちます。
市場関係者は今回の雇用統計について、「要点は労働市場が依然として極めてタイトで、非常にゆっくりとしたペースで緩和しているに過ぎないということだ」と説明しました。加えて、「景気は底堅く、一段の利上げや景気抑制策の長期化に対応可能であることを示唆している」との見解を示しています。
今回の予想を上回る雇用者数の伸びは、金利が大幅に上昇してリセッション(景気後退)懸念が高まっている中でも雇用市場の強さが続いていることを示しています。新型コロナウイルスのパンデミックによる混乱は落ち着いてきたものの、労働需給のミスマッチはなかなか解消されず、賃金上昇を引き続き下支えしているのが現状です。
市場関係者は「平均時給の伸びの加速は、労働者不足が依然としてインフレ圧力を強めていることを示す」との見方を示しています。別の市場関係者は「ターミナルレートの予想を9月時点で示した水準から、5.25%に引き上げる必要があるかもしれない」と語りました。現在の政策金利は3.75〜4%であり、市場では現状4.75〜5%がピークと予想されています。
ドル円は今回の雇用統計の結果を受けて急騰し、一時136円付近まで上昇を見せました。
米PCEコア価格指数、市場予想を下回る
10月の米個人消費支出(PCE)コア価格指数は市場予想が前月比0.3%上昇、結果が0.2%上昇となり、市場予想を下回りました。今年に入って2番目に低い伸びにとどまっています。
一方、実質個人消費支出は前月比0.5%増と1月以来の大きな伸びを見せ 、FRBが利上げを続ける中でも、リセッションを引き起こすことなくインフレを抑制できるとの期待を生じさせる結果となりました。10月の米消費者物価指数(CPI)と同様に、PCE価格指数でもインフレが鈍化し始めたことが示されましたが、水準は依然としてかなり高いのも事実です。
市場関係者は今回の結果について、「米連邦公開市場委員会(FOMC)が今後の数会合で、利上げペースをより緩やかなものにするという論拠が強まった」との見方を示しました。米ニューヨーク連銀のウィリアムズ総裁は、「インフレ率は来年大幅に鈍化する見込みだ」と語っています。ただし、「FRBの目標である2%には2025年まで戻らない恐れがある」との見解を示しました。
ユーロ圏のインフレ率の上昇が1年半ぶりに減速
11月のユーロ圏消費者物価指数(CPI)速報値は市場予想が前年同月比10.4%上昇、結果が10%上昇となり、市場予想を下回りました。前月の結果は10.6%上昇であり、低下幅は2020年以来の大きさです。
ユーロ圏のインフレ率の上昇は1年半ぶりの減速となり、ここ数十年で最悪の物価上昇への対処に苦戦する欧州中央銀行(ECB)にとって、歓迎すべき結果と言えるでしょう。今回の結果の理由としては、食品価格の値上がりは加速したものの、エネルギーやサービスのコストの上昇ペースが鈍化したことが挙げられます。
ECB当局者は利上げ幅を決定する上での重要な判断材料として、インフレ統計を挙げてきました。インフレ率の減速は、12月15日に予定されているECBの政策金利発表に大きな影響を与えそうです。
ただし、ECBのラガルド総裁は欧州議会で、「インフレがピークを付けたのだとしたら驚きだ」との見解を示しています。加えて、デギンドス副総裁は「ユーロ圏のインフレ率があと数カ月間は現在の水準にとどまる」との見方を示しました。
ユーロ圏のインフレ率の上昇は減速したものの、まだ楽観視はできそうにありません。