概要
- 政府は黒田東彦総裁の後任として、元日銀審議委員の植田氏を起用する方針
- 「ややタカ派寄りな中立姿勢をもたらす」と考える市場関係者も
- パウエル議長「インフレ沈静化のため複数回の追加利上げが必要になる」
- 「借り入れコストのピークを従来の想定より高くする必要があるかもしれない」
- 英国の昨年10〜12月のGDPは前期比で0.0%
- リセッション入りは回避されたが、2桁のインフレ率に苦しんでいる状況
次期日銀総裁は元日銀審議委員の植田和男氏を起用
政府が日銀の黒田東彦総裁の後任として、有力候補の中には入っていなかった経済学者で1998年から日銀審議委員を7年間務めた植田和男氏を起用する方針を固めました。副総裁には日銀の内田真一理事、氷見野良三前金融庁長官を充てるとしています。黒田総裁の後任は雨宮正佳副総裁が有力視されていましたが、政府の打診を辞退したとの報道がありました。
植田氏は現在、共立女子大学の教授であり、マクロ経済や国際金融の専門家です。97年11月に起きた山一証券や北海道拓殖銀行などの破綻による金融システム不安などを背景として日本経済が不況におちいる中、速水優総裁の下で実施されたゼロ金利政策や量的緩和政策の理論的な支柱となりました。
市場関係者は「極めてバランスの取れた人選で、そこまでタカ派とかハト派という色もなく、必要な正しい政策をとるだろうという期待はある」と述べています。別の市場関係者は「植田氏の次期日銀総裁起用はサプライズ人事となろう。同氏は日銀政策委員会で現在優勢なハト派寄りスタンスよりも、ややタカ派寄りな中立姿勢をもたらすだろうと考えられる。報道後の円急騰もそうした方向を示す」と説明しました。
植田氏の起用は市場にとってサプライズ人事となり、ドル円は131円台半ばから129円台まで急落を見せましたが、その後は急速に値を戻す荒っぽい展開になりました。植田氏がタカ派寄りだという結論になればドル円の大きな下落要因になりそうです。ただし、植田氏は現在の日銀の金融政策は適切として「現状では金融緩和の継続が必要だ」と発言し、今のところ早期正常化への警戒感は後退しています。
パウエルFRB議長「さらなる利上げが必要になる」
米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長が、「インフレ沈静化のため複数回の追加利上げが必要になる」との見解を示しました。また、労働市場の力強さが続いた場合は、「借り入れコストのピークを従来の想定より高くする必要があるかもしれない」としています。
パウエル議長は現在の労働市場について、「並外れて強い」との認識を示しています。1月の米雇用統計では、非農業部門雇用者数は市場予想が前月比18万8000人増、結果が51万7000人増となり、予想を大きく上回る結果になりました。失業率は市場予想が3.6%、結果が3.4%とこちらも強さを見せています。失業率は1969年5月以来となる53年ぶりの低水準です。
パウエル議長は以前から「労働市場の圧力緩和が住宅を除くコアサービスのインフレ鈍化への答えへの一部になる」との見方を示しています。加えて、今回の雇用統計の結果について、「相当な時間のかかるプロセスになるとわれわれが考える理由を示している」と述べました。
FRBが昨年12月に公表した四半期経済予測では、政策金利のピークの見通しの中央値は5.1%となっています。しかしパウエル議長の発言は、必要と判断すればさらに高い水準への利上げに踏み切る姿勢を感じさせるものでした。現在、市場では政策金利のピークは5~5.25%、年後半の0.25ポイント利下げが見込まれています。
パウエル議長の発言を受けて、ドル円は131円台前半から130円台半ばまで下落しましたが、その後すぐに値を戻しました。
英GDPはリセッション入りを紙一重で回避も厳しい見通し
英国の昨年第4四半期(10〜12月)の国内総生産(GDP)は速報値の0.2%減から上方修正され、前期比で0.0%となりました。今回の結果は市場予想と一致しています。
欧米においては、実質GDP成長率が2四半期連続でマイナスになると「テクニカルリセッション入り」とされ、速報的な景気の転換点として広く認識されます。第3四半期は0.2%減であり、紙一重で定義上のリセッション入りは回避されたものの、家計は引き続き2桁のインフレ率に苦しんでおり、今年の見通しは厳しい状況です。
市場関係者は「英国経済は前向きな調子をやや強めて22年を終了し、定義上のリセッションを辛うじて免れた。それでも今年いっぱいは緩やかではあるが、長いリセッションに陥ると依然見込まれている」との見解を示しました。また、ハント財務相は「多くの人が懸念していたよりも英国経済の回復力は強い」としつつ、「しかしながら最悪期はまだ脱しておらず、特にインフレについては厳しい」と述べています。