概要
- 6月の非農業部門雇用者数は2020年末以来の小幅な伸びとなり、労働市場が徐々に減速しつつあることを示唆
- 賃金の伸びが底堅いことから、FOMCが7月の会合で利上げを再開する可能性は高い
- FOMCの議事要旨で参加者の一部が当初利上げを支持したことが明らかに
- 日銀短観は大企業製造業の景況感を示すDIが、7四半期ぶりに改善
- 7月の金融政策決定会合で政策修正に踏み切るとの思惑が、一段と強まる可能性がある
米雇用者数は伸びが鈍化も平均時給が堅調な伸び
6月の非農業部門雇用者数は市場予想が前月比23万人増、結果は20万9000人増となり、結果が市場予想を下回りました。2020年末以来の小幅な伸びとなったことで、労働市場が徐々に減速しつつあることが示唆されています。
また、平均時給は市場予想が前月比0.3%増、結果は0.4%増となり、こちらは結果が市場予想を上回りました。賃金は3カ月連続で前月比0.4%増であり、堅調な伸びが続いています。
今回の雇用統計は労働市場が少し勢いを失いつつあることを示唆していますが、賃金の伸びは底堅く、米連邦公開市場委員会(FOMC)は7月の会合で利上げを再開する可能性が高いと言えそうです。市場関係者は「引き締まった労働市場環境が幾分か緩む必要がある。そうなればFRBは賃金が落ち着き始めるとの確信を強められる」との見解を示しました。
ただし、失業率よりも労働市場のたるみをより正確に示すとされる不完全雇用率は、約1年ぶりの高水準となっています。経済的な理由により、パートタイムで勤務する労働者が増えているのが理由です。
加えて、労働市場の軟化を示す先行指標とされる臨時・契約社員の数も約2年ぶりの水準に落ち込んでいます。さらに、全体で30万人増加した失業者数の90%近くを、黒人の失業者数が占めています。黒人の失業者は、労働需要が後退した場合に最初に職を失うことが多いとされており、労働市場の冷え込みの兆候かもしれません。
7月会合で利上げを再開する可能性は高そうですが、9月に関してはまだまだ不透明と言えるでしょう。現在、市場は7月に0.25ポイントの利上げを行い、来年5月には0.25ポイントの利下げを行うと予想しています。
FOMC議事要旨で参加者の意見の不一致が明らかに
6月に開かれたFOMCの議事要旨が公開され、全会一致という表向きの決定が示唆するほど参加者の意見は一致していなかったことが明らかになりました。参加者の一部は利上げを支持したものの、最終的には利上げを一時停止するとの判断に賛同したという流れになっています。
議事要旨には、「ほぼ全ての参加者がフェデラルファンド(FF)金利の誘導目標レンジを5〜5.25%に据え置くことが適切、あるいは容認できると判断した」と記載されていました。とはいえ、「一部の参加者は今会合で目標レンジを25ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)引き上げる方が好ましい、ないし、そうした提案を支持できたかもしれないと表明した」ともしており、タイトな労働市場やインフレ率がFRBの目標とする2%に向かって減速している兆しが比較的乏しいことを理由に、参加者の一部は利上げを支持していたようです。
6月の会合では政策金利は据え置きとなりましたが、ほぼ全ての参加者が「追加利上げが適切となる公算が大きい」と述べていたことも分かり、7月の会合では利上げを実施するとの見通しが強まっています。また、ダラス連銀のローガン総裁は「物価安定と最大雇用というFOMCのゴールを達成するためには、より景気抑制的な金融政策が必要になると考える」との見方を示しました。ニューヨーク連銀のウィリアムズ総裁も、「FRBがこれまでに入手したデータは、金融政策面でまだやるべきことがあるとの仮説を支持するものだ」とタカ派的な発言を行っています。
7月の会合前に今後発表される経済指標では、12日の米消費者物価指数(CPI)が政策金利の決定に大きな影響を与えそうです。
日銀短観は大企業製造業の景況感が7期ぶりに改善
日銀が発表した企業短期経済観測調査(短観)は、大企業製造業の景況感を示す業況判断指数(DI)が、企業の価格転嫁の進展や自動車生産の回復などを受け、7四半期(1年9カ月)ぶりに改善しました。さらに、大企業非製造業も5期連続の改善となっています。
景気が「良い」と答えた企業の割合から「悪い」の割合を引いたDIは、大企業製造業がプラス5となり、前回のプラス1から改善しました。市場予想は3であり、市場予想も上回っています。特に、半導体不足の影響が緩和して生産が持ち直している自動車は、前回のマイナス9からプラス5に大きく改善しました。
市場でくすぶる「7月の金融政策決定会合で政策修正に踏み切る」との思惑が、一段と強まる可能性もありそうです。