概要
- 3月の米CPIは総合・コア共に結果が市場予想を上回った
- コア価格指数は3カ月連続で市場予想を上回る伸びに
- 市場では利下げ観測が後退し、7月に利下げが開始され、年間では計2回0.5ポイントの利下げ実施が現在予想されている
- ECBが5会合連続での政策金利据え置きを決定
- ただし、インフレ率の低下に伴って、近く利下げをすることが可能だという、これまでで最も明確な利下げのシグナルも送った
- 3月に開催されたFOMC会合の議事要旨が公開され、政策決定当局者のほぼ全員が年内の利下げが適切と判断していたことが分かった
米コアCPIが3カ月連続で予想を上回る伸びに
3月の米消費者物価指数(CPI)は、変動の大きい食品とエネルギーを除くコア価格指数が、市場予想前年同月比3.7%上昇、結果が3.8%上昇となり、結果が市場予想を上回りました。これでコア価格指数は、3カ月連続で市場予想を上回る伸びとなりました。
また、総合は市場予想前年同月比3.4%上昇、結果が3.5%上昇となり、こちらも結果が市場予想を上回っています。米連邦準備制度理事会(FRB)が20年ぶりの高水準に政策金利を維持しているにもかかわらず、インフレ圧力が再度強まっていることが示唆され、市場関係者の間で利下げ観測が後退しています。
ある市場関係者は「6月利下げの扉が激しく閉まる音が聞こえた。これでその可能性は完全に消えた」との見方を示しました。別の市場関係者は「FRBはCPIをターゲットにしていないとはいえ、利下げ開始を遅らせる、あるいは年内の利下げ想定回数を減らす理由がこれでまた一つ増えた」との見解を示しています。
3月の雇用統計でも、予想を大幅に上回る就業者の伸びと失業率の低下によって、労働市場の堅調さが示されていました。労働市場が堅調であれば、利下げを急ぐ理由が一つ減ることになります。
現在、市場は7月に利下げが開始され、年間では計2回0.5ポイントの利下げ実施を予想しています。最近まで6月に利下げが開始され、年間では計3回0.75ポイントの利下げがあると予想されていたことを考えると、利下げ観測は大幅に後退したと言えるでしょう。
また、ドイツ銀行とバンク・オブ・アメリカは、年内の利下げ回数について12月に1回のみとの見通しを示しており、市場よりもさらに利下げ観測を後退させています。ボストン連銀のコリンズ総裁やサンフランシスコ連銀のデーリー総裁も、利下げを急ぐ必要はないとの認識を示しています。
利下げ観測が後退すればするほど、ドルが買われてドル円は上昇しやすくなりそうです。ドル円は1990年以来の円安水準となる153円台で推移したまま週末を迎えており、さらに上昇する可能性もあります。
ただし、神田財務官や鈴木財務相から口先介入と捉えられるような市場へのけん制発言も出ており、為替介入を警戒した神経質な展開になっていきそうです。
ECBが政策金利維持も6月の利下げ示唆
欧州中央銀行(ECB)が、5会合連続での政策金利据え置きを決定しました。ただし、インフレ率の低下に伴って、近く利下げをすることが可能だという、これまでで最も明確な利下げのシグナルも送っています。
ECBの政策理事会は、声明で「インフレ見通し、基調的インフレの動向、金融政策伝達の強さに関する政策委の最新の評価で、インフレが持続的に目標に向けて収束しているとの確信がさらに強まった場合、金利による景気抑制の度合いを現在の水準から引き下げることが適切だろう」とし、6月に公表される最新の経済予測によっては利下げをする方針を示しました。
ただし、ラガルドECB総裁が「米国は非常に大きな市場であり、経済規模も非常に大きく、主要な金融センターでもあるため、全てがユーロ圏にも波及してくる」とし、米国の金融政策の影響を認めたことで、米欧の金融政策の違いに配慮する形で利下げペースを緩やかにする可能性がありそうです。米国が政策金利を維持、ユーロ圏が利下げという傾向が鮮明になれば、ユーロはドルに対して大きく下がってしまうことが考えられ、ECBはこれに配慮することが必要かもしれません。
FOMC議事要旨「年内利下げ適切」
3月に開催された米連邦公開市場委員会(FOMC)会合の議事要旨が公開され、政策決定当局者のほぼ全員が「年内のいずれかの時点で借り入れコストを引き下げ始めるのが適切になる」と判断していたことが分かりました。ただ、最近の経済指標では労働市場の堅調さや、インフレ圧力の高まりが示されており、利下げペースは緩やかなものになるかもしれません。
議事録では、インフレ率がFRBの目標とする2%への道をしっかりと歩んでいる証拠を得るまで、FRBは利下げに消極的であることが強調されており、3月のCPIが総合・コア共に市場予想を上回ったことを考えると、年内の利下げ幅は1~2回程度になりそうです。