概要
- イスラエルとイランの対立激化への懸念が、リスク回避の円買いにつながった
- 中東情勢の緊迫化を受けた原油価格上昇があれば、エネルギーのほとんどを輸入している日本にとって、中長期的には円安を加速させるリスクも
- 3月の米小売売上高は、結果が市場予想を上回った
- 市場の年内の利下げ観測はさらに後退し、9月に利下げ開始、年間計1回0.25ポイントの利下げを予想
- 3月の全国消費者物価指数は、総合・コア共に結果が市場予想を下回った
- 物価の基調を示すコア価格指数が2カ月ぶりの鈍化を見せたものの、24カ月連続で日銀の目標である2%以上で推移
イスラエルとイランの対立激化で円買いの流れ
イスラエルのミサイルがイランの拠点を攻撃したとの報道により、対立激化への懸念からリスク回避の円買いにつながりました。イスラエルとイランの対立がエスカレートしていけば、さらなる円買いが起こる可能性もあります。
ある市場関係者は、「状況が不透明な中でリスク回避の動きが強まりやすい上、値動きの軽さから2円くらい円高に動いてもおかしくない」との認識を示しました。投機筋の円売りポジションが積み上がっており、リスク回避に伴ってポジションが解消されれば、急激な円高も考えられそうです。
ただし、中東情勢の緊迫化を受けて原油価格が上昇すれば、エネルギーを国内消費量の1%未満しか生産できず、消費量のほとんどを中東などから輸入している日本にとっては大きなダメージとなり、中長期的には円安を加速させるリスクがあります。例えば、ドル円で考えれば、米国は世界最大の産油国であり、米国経済より日本経済の方がはるかに深刻なダメージを受けることになりそうです。
中東情勢緊迫化によって日本の貿易収支悪化を通じた円売り圧力につながるかどうか、イスラエルとイランの公式見解や、今後の行動に市場の注目が集まっています。
米小売売上高が市場予想を上回る伸びに
3月の米小売売上高は市場予想が前月比0.4%増、結果は0.7%増となり、結果が市場予想を上回りました。底堅い消費需要によって、米国経済がしっかりと支え続けられていることが示されています。
雇用統計で労働市場の強さが裏付けられており、これによって家計需要も堅調になっていると考えられます。この状況が続けば、インフレ率が予想より下がらず、米連邦準備制度理事会(FRB)による利下げ開始の時期が一段と遅れそうです。
ある市場関係者は「このところ雇用の伸びが再び力強さを増していることと並び、個人消費の底堅さ継続も、FRBが利下げ開始までさらに長く待つと思わせる理由だ。利下げは9月までないと当社では考えている」と語りました。別の市場関係者は「3月の小売売上高のようなデータが続けば、FRBは利下げする立場にないかもしれない」との見方を示しています。
小売売上高が予想を上回る伸びとなったことで、市場の年内の利下げ観測はさらに後退しました。現在、市場は9月に利下げが開始され、年間では計1回0.25ポイントの利下げ実施を予想しています。
パウエルFRB議長も「最近のデータがわれわれの確信を深めるものでないことは明らかであり、それどころか確信を得るには想定よりも時間がかかる可能性が高いことを示唆している」としており、FRBが利下げ実施まで待つ期間は以前の想定よりも長くなることを示唆しています。クリーブランド連銀のメスター総裁についても、「私はインフレ率が下がるとなお予想しているが、行動を起こす前により多くの情報に注意を払い、集める必要があると思う」とし、利下げを急がない姿勢を見せました。
小売売上高が市場予想を上回ったことで、ドル円は約34年ぶりとなる154円台にまで上昇を見せました。
全国消費者物価指数が市場予想を下回り、2か月ぶりの鈍化
3月の全国消費者物価指数は、総合が市場予想前年同月比2.8%上昇、結果が2.7%上昇となり、結果が市場予想を下回りました。また、生鮮食品を除くコア価格指数については、市場予想が前年同月比2.7%上昇、結果が2.6%上昇となり、こちらも結果が市場予想を下回っています。
物価の基調を示すコア価格指数が2カ月ぶりの鈍化を見せたものの、24カ月連続で日銀の目標である2%以上で推移しています。物価について植田日銀総裁は、「ダウンサイドリスクの方が低くなり、基調的な物価上昇率が2%に収束していく可能性が高まった」と語っていました。
今月の日銀の金融政策決定会合では、政策金利の現状維持が予想されていますが、経済・物価情勢の展望(展望リポート)で示される物価見通しのリスクバランスの判断に、市場の注目が集まりそうです。実際に物価上昇率が2%に収束していくかについては、平均賃上げ率が33年ぶりに5%を超えた春闘での賃上げ分が、しっかりと価格に転嫁されるかがキーポイントになります。